理解可能なインプットとは?「i+1」と理解率の誤解・英語習得で本当に見るべき基準

インプット 2026.08.26

読了目安時間:22分

執筆:CHADSくん(CHADS共同創業者・トリリンガル)
最終更新:2026年8月26日

「理解可能なインプットが大切です。」

英語イマージョンについて調べたことがある人なら、一度は聞いたことがあると思います。

そして、少し詳しく調べると、こんな言葉も出てきます。

「i+1の英語を聞きましょう。」

「95%以上理解できるコンテンツを選びましょう。」

「98%分かるくらいが理想です。」

ここで、多くの真面目な英語学習者ほど迷い始めます。

この動画は80%くらいしか分からないから、難しすぎる?

字幕を使ったら理解可能なインプットではなくなる?

知らない単語が10個あったから、もっと簡単な動画にした方がいい?

自分が見たい動画は難しい。

でも、理解できる動画は退屈。

結局、「自分にちょうどいいInput」が何なのか分からなくなります。

しかし、ここには一つ大きな誤解があります。

理解可能性は、動画そのものに固定された「難易度」ではありません。学習者とコンテンツの間に、その瞬間に生まれる状態です。

同じ動画でも、あなたがテーマについて詳しければ理解しやすくなります。

ストーリーをすでに知っていれば、さらに理解できます。

映像があれば、言葉だけでは分からなかった意味を推測できます。

大好きなテーマなら、多少難しくても集中して見られることがあります。

逆に、疲れている日には、昨日理解できた動画さえ難しく感じます。

つまり、理解可能なインプットを実践するうえで本当に必要なのは、「何%分かったか」を正確に計算することではありません。

今、自分はこの英語を使って「意味」を追えているのか。

これを判断できることです。

この記事では、Stephen KrashenのComprehensible Input、Paul NationのMeaning-focused Input、そして理解率に関する研究を整理しながら、CHADSが個人学習者向けにどのように理解可能性を考えているのかを解説します。

ただし、この記事でCHADSのInput Calibrationのすべてを公開するわけではありません。

難易度、字幕、反復、集中度、興味、生活状況などをどう組み合わせ、どのタイミングで何を変えるかという具体的な調整方法は、CHADSのプログラム内で体系的に扱っています。

この記事の目的は、その前段階です。

「理解可能なインプットとは何なのか」を、数字ではなく正しく理解できる状態を作ります。

この記事の要点

  • 英語についての文法知識を増やすことと、実際の英語を高速で理解できるようになることは同じではありません。大量の実際の英語を意味と結びつけて処理する経験が必要です。
  • Krashenの「i+1」は、「現在より正確に一段階だけ難しい教材を探せ」という意味ではありません。
  • 95%・98%という数字の多くは、語彙カバー率と読解・聴解の研究から来ています。「動画を98%理解できなければInputにならない」という意味ではありません。
  • Paul NationのMeaning-focused Inputでは、学習者の注意が「英語そのもの」ではなく、伝えられている意味やメッセージへ向いていることが重要です。
  • 同じコンテンツでも、興味、背景知識、映像、字幕、疲労、話者への慣れなどによって理解可能性は変化します。
  • 個人学習者は、一つのクラス全体に合わせる必要がありません。その日の自分に合わせて、コンテンツと補助を細かく調整できます。
  • 実践では、「知らない単語が何%あるか」だけでなく、「人物・主張・展開を追えているか」「続きが気になるか」といった意味理解のサインを見る方が役立ちます。

目次

  1. なぜ文法を知るだけでは英語を使えるようにならないのか
  2. 理解可能なインプットとは?
  3. 「i+1」の本当の意味
  4. 理解可能性は、コンテンツに固定された数字ではない
  5. KrashenからNationへ:Meaning-focused Inputという考え方
  6. 「95%」「98%理解すべき」はどこから来たのか
  7. 「理解できる」と「内容を追えている」は同じではない
  8. 個人学習者には、教室にはない「調整の自由」がある
  9. 難しいコンテンツは避けるべき?
  10. 簡単すぎる英語は意味がない?
  11. 今日から理解可能なInputを始める4ステップ
  12. 理解可能なInputだけで英語習得は完成する?
  13. 理解可能なインプットについてよくある質問
  14. まとめ
  15. 私たち「CHADS」とは?

なぜ文法を知るだけでは英語を使えるようにならないのか

理解可能なインプットについて考える前に、そもそもなぜInputが必要なのかを確認します。

日本の英語教育では、長い間、英語について多くのことを学びます。

現在完了とは何か。

関係代名詞とは何か。

この単語の日本語訳は何か。

この文をどう訳すか。

こうした知識には意味があります。

CHADSも、文法や語彙の意図的な学習を否定していません。

問題は、説明を理解したことと、実際の言語をリアルタイムで処理できることは別だという点です。

たとえば、supposed to の意味を知っていても、ネイティブが自然な会話の中で高速に発音した瞬間、その音を認識できるとは限りません。

文法問題なら分かる構造でも、ポッドキャストの中では気づけないことがあります。

単語帳で知っている単語でも、別の意味、別の感情、別の語との組み合わせで使われると理解できないことがあります。

言語は、説明だけではなく「使用例」からも学ぶ

実際の英語へ大量に触れると、同じパターンへ何度も出会います。

同じ単語が、違う文章の中に現れます。

同じ文法構造を、違う話者が使います。

同じ言い回しが、似た状況で繰り返されます。

最初は一つ一つ分析しなければ分からなかったものが、繰り返しによって少しずつまとまりとして認識されるようになります。

第二言語習得研究でも、言語の頻度や繰り返しへの接触が、語彙、チャンク、文法的なパターンの学習と処理に関係することが長く研究されています。

人間は、毎回ゼロから文法規則を計算して会話しているわけではありません。

大量の実例から、

「この場面では、こういう言い方がよく出る」

「この単語の後には、この形が来やすい」

「この音の並びは、この意味を持つ」

という規則性を少しずつ学びます。

英語について学ぶことは、英語習得を助けます。しかし、実際の英語を大量に処理する経験の代わりにはなりません。

イマージョンは「海外へ住むこと」ではない

ここでいうイマージョンは、アメリカやイギリスへ引っ越すことではありません。

海外に住んでいても、日本人と日本語だけで生活すれば、英語への接触は限定されます。

反対に、日本に住みながらでも、YouTube、ポッドキャスト、映画、本、SNS、仕事、会話などを通して、毎日大量の英語へ触れる環境を作ることはできます。

オンライン英会話へ毎日行くことだけがイマージョンでもありません。

CHADSが重視するのは、生活の中で、英語を使って意味を処理する時間を大きく増やすことです。

そして、そのInputが習得につながるための中心的な条件の一つが、理解可能性です。

英語習得におけるInputの全体像を詳しく読む


理解可能なインプットとは?

理解可能なインプットは、英語でComprehensible Inputと言います。

第二言語習得研究に大きな影響を与えたStephen Krashenは、学習者が意味を理解できる言語へ触れることを、言語習得の中心に置きました。

重要なのは、単に英語の音が耳へ入ることではありません。

英語を使って、何かを理解していることです。

たとえば、動画の中で二人が言い争っているとします。

すべての単語は分かりません。

でも、誰が怒っているのかは分かる。

何について揉めているのかも分かる。

一人が嘘をついたことも分かる。

知らない表現が出ても、前後関係からだいたい意味を推測できます。

これは、意味を追えているInputです。

反対に、英語ニュースを二時間流していても、話題すら分からず、ただ音が流れているだけなら、同じ二時間でも習得につながる情報量は大きく変わります。

ComprehensibleとComprehensiveは違う

検索すると、時々comprehensive inputという表現を見ることがあります。

しかし、言語習得で一般的に使われる言葉は、comprehensible inputです。

comprehensibleは「理解できる」。

comprehensiveは「包括的な」。

似ていますが、意味は違います。

Krashenの理論について調べる場合は、Comprehensible Inputで検索してください。


「i+1」の本当の意味

Comprehensible Inputを説明する時に、最も有名な言葉がi+1です。

一般的には、

  • i:現在の学習者の言語能力
  • +1:現在の能力より少し先にある新しい言語

と説明されます。

ここまでは問題ありません。

問題は、ここからです。

i+1が、いつの間にか、

「自分より正確に一段階だけ難しい教材を探さなければならない」

というルールに変わってしまうことがあります。

しかし、Krashen自身の説明は、そこまで機械的ではありません。

十分な量の理解可能なInputに触れていれば、その中には現在より少し先にある言語要素が自然に含まれるため、学習者や教師が毎回「これが正確なi+1か」を設計する必要はない、という考え方です。

i+1は「教材レベルを正確に測る公式」ではありません。理解できる意味の中で、まだ完全には身についていない英語へ出会うという考え方です。

Netflixに「i+1」「i+2」というラベルは付いていない

現実のコンテンツは、教科書のように一段階ずつ難しくなりません。

ある動画には、簡単な部分と難しい部分が混ざっています。

簡単な単語で難しい概念を説明する人もいます。

難しい語彙を使っていても、映像から意味が明確な動画もあります。

そのため、

「この動画はi+1」

「このポッドキャストはi+3」

と客観的に測れるものではありません。

CHADSでは個人学習を考える時、あえて感覚的に言えば、i+2、i+3、i+4のように感じる素材でも使える場合があると考えます。

ただし、ここでいうi+2やi+3は、研究上定義された正式なレベルではありません。

「通常より難しい素材」を分かりやすく表現しているだけです。

重要なのは、難易度の数字ではありません。

その難しさの中でも、意味を追える理由があるかです。


理解可能性は、コンテンツに固定された数字ではない

同じ英語力の二人が、同じ動画を見たとします。

一人は、総合格闘技を10年間見ています。

もう一人は、UFCという名前しか知りません。

二人が英語のMMA解説動画を見た場合、理解度は同じでしょうか。

おそらく違います。

一人目は、選手名、ルール、技、試合の流れをすでに知っています。

英語をすべて聞き取れなくても、背景知識が大量の空白を埋めます。

これは英語力が突然上がったからではありません。

意味を理解するために使える情報が増えたからです。

理解可能性を変える要素 どう影響するか
背景知識 テーマや状況を知っているほど、聞き取れない部分を推測しやすくなります。
映像・表情・状況 言葉以外から、人物、行動、感情、出来事を理解できます。
ストーリーへの知識 すでに日本語で見た作品などは、難しい英語でも意味を追いやすくなります。
話者への慣れ 同じ人を繰り返し聞くと、声、アクセント、頻出表現へ慣れます。
字幕・トランスクリプト 音だけでは失われた情報を回復できます。
興味 続きを知りたいほど、注意を長く維持し、文脈を使って意味を推測しやすくなります。
その日の状態 疲労、集中力、気分によって、同じコンテンツの負荷が変わります。

つまり、

「この動画は中級者向けだから、B1なら理解可能」

という判断だけでは不十分です。

動画の難易度は一つの変数です。

学習者側にも複数の変数があります。

Comprehensible Inputは「コンテンツのカテゴリー」ではありません。「今の自分が、このコンテンツから意味を取り出せている状態」です。


KrashenからNationへ:Meaning-focused Inputという考え方

ここでもう一人、CHADSの考え方に大きな影響を与えている研究者を紹介します。

Paul Nationです。

Nationは、バランスの取れた言語コースを考えるFour Strandsという枠組みを提案しました。

四つは、次の通りです。

  • Meaning-focused Input:聞く・読むことを通して、意味を理解しながら学ぶ
  • Meaning-focused Output:話す・書くことを通して、意味を伝えながら学ぶ
  • Language-focused Learning:語彙、文法、発音などへ意図的に注意を向ける
  • Fluency Development:すでに知っている言語を、より速く、楽に使えるようにする

ここで注目したいのが、Meaning-focused Inputです。

日本語では「意味中心のInput」と考えると分かりやすいでしょう。

重要なのは、学習者の注意が、

「この文法は何だろう?」

「知らない単語はいくつある?」

だけに向くのではなく、

「この人は何を言っているのか?」

「何が起きているのか?」

「この話の結論は何なのか?」

へ向いていることです。

理解可能であることと、意味中心であること

ここは非常に重要な違いです。

簡単な英語を聞いていれば、自動的にMeaning-focused Inputになるわけではありません。

単語を一つずつ数えながら聞いている。

すべての文を日本語へ翻訳している。

文法構造ばかり分析している。

この場合、英語は理解できていても、注意の中心は「内容」ではなく「言語そのもの」になっています。

もちろん、分析する時間にも価値があります。

Nation自身もLanguage-focused Learningを別の重要な活動として位置づけています。

ただし、それとMeaning-focused Inputは、目的が違います。

CHADSで大切にしている区別

英語を理解するために、言語そのものを見る時間と、

英語を使って、言語の向こう側にある意味を見る時間は、両方必要ですが同じ活動ではありません。


「95%」「98%理解すべき」はどこから来たのか

ここは、理解可能なインプットについて最も混乱が起こりやすい部分です。

インターネットでは、

「Inputは98%理解できるものを選ぶべき」

と説明されることがあります。

この数字には研究上の背景があります。

しかし、意味を正しく理解する必要があります。

最初に区別したいのは「語彙カバー率」と「理解率」

研究で扱われる95%や98%は、多くの場合、

文章や音声に出てくる単語のうち、何%を知っているか

というlexical coverage(語彙カバー率)です。

たとえば、98%の語彙カバー率なら、単純化すると50語に1語程度が未知語です。

これは、

「内容を98%理解できた」

という意味ではありません。

知っている単語の割合と、話全体をどれだけ理解できるかは関係します。

しかし、同じものではありません。

読解では、高い語彙カバー率が有利

HuとNationの有名な2000年の研究では、英語のフィクションを補助なしで読む場合、多くの学習者が十分な理解を得るには、約98%の語彙カバー率が必要になる可能性が示されました。

ただし、この98%は、すべての言語活動に共通する絶対的な境界線ではありません。

2023年に行われたHuとNationの研究の追試でも、語彙カバー率が高いほど理解が良くなるという大きな関係は確認された一方、98%を普遍的な閾値として扱うことには注意が必要だという結果が出ています。

Listeningでは、同じ数字にならない

さらに興味深いのがListeningです。

van ZeelandとSchmittは、非ネイティブ話者に、語彙カバー率を変えた自然な物語音声を聞かせました。

その研究では、90%でも多くの参加者が内容をある程度十分に理解できました。

ただし、90%では個人差が大きく、95%では理解がより安定しました。

つまり、

「Readingで98%と言われているから、YouTubeも必ず98%」

とは言えません。

研究領域 大まかな結果 実践上の意味
読解 95〜98%付近の高い語彙カバー率ほど、補助なしで理解しやすいという研究が多い。 未知語が多すぎる文章は、意味の流れを維持しにくくなります。
自然なListening 90%でも理解できる学習者はいるが個人差が大きく、95%ではより安定したという研究がある。 一つの固定数字ではなく、話題、話者、速度、文脈なども含めて判断する必要があります。
映像付きInput 映像が意味理解を助けるため、語彙だけでは理解可能性を説明できない。 YouTubeや映画では、映像・状況・背景知識も理解の一部として使えます。

数字を知った結果、Inputが悪くなることもある

95%や98%という研究を知ること自体には価値があります。

高い理解可能性が重要だという方向性を教えてくれるからです。

しかし、実際の学習でこんな状態になったら注意が必要です。

動画を30秒見る。

知らない単語を数える。

巻き戻す。

理解率を考える。

また止める。

「今のは85%かな、90%かな」と考える。

これを続けると、ある逆転が起こります。

内容を理解するために英語を聞いていたはずなのに、理解率を測るために英語を聞き始めます。

Meaning-focused Inputの中心は、意味です。

数字ではありません。

「98%を達成すること」が目的ではありません。意味を追いながら、大量の英語へ継続的に触れられる状態を作ることが目的です。


「理解できる」と「内容を追えている」は同じではない

では、毎回理解率を計算しないなら、どうやって理解可能なInputになっているかを判断すればいいのでしょうか。

CHADSでは、単語の割合だけではなく、内容に対して自分の頭が何をしているかを見ることを重視します。

たとえば、動画を数分見たところで一度止めてみてください。

そして、次のような質問を考えます。

  • 今、誰が何について話しているか分かりますか?
  • 直前の一分で、重要だったことを説明できますか?
  • 登場人物が何をしたいのか、なぜそうしているのか分かりますか?
  • このあと何が起きそうか、ある程度予想できますか?
  • 分からない言葉があっても、話の流れは失っていませんか?
  • そして何より、続きが気になりますか?

これらは、科学的に標準化された「理解可能なInputテスト」ではありません。

実際の学習中に、自分が意味へ関われているかを確認するための実践的なサインです。

「全部聞き取れた」と「話を理解した」も違う

逆方向の誤解もあります。

一文一文は聞き取れる。

知らない単語もほとんどない。

でも、5分後に「何の話だった?」と聞かれると答えられない。

これは起こります。

英語の音を認識できていても、注意が内容から外れていれば、意味中心のInputにはなりにくくなります。

そのため、CHADSでは理解可能性だけでなく、Engagement、つまり内容へ実際に関わっているかも重要な判断材料として扱います。

興味があるコンテンツが強いのは、ここです。

「英語を聞かないといけないから聞く」のではなく、

答えを知りたいから聞く。

続きが見たいから聞く。

この人が何を言うのか知りたいから聞く。

英語への注意を維持するために、毎回意志力を使う必要が減ります。

自分が本当に見たい英語YouTubeを見つける方法を読む


個人学習者には、教室にはない「調整の自由」がある

ここが、CHADSが個人学習を考えるうえで非常に重視している部分です。

KrashenのInput Hypothesis自体は、教室だけを対象にした理論ではありません。

一方、NationのFour Strandsは、もともとバランスの取れたlanguage courseを設計するための考え方です。

教師がクラスを教える場合、20人、30人の学習者へ同時にInputを提供しなければなりません。

一人は映画が好き。

一人は経済が好き。

一人は初心者。

一人は上級者。

全員の興味、背景知識、疲労、理解度へ毎分合わせることはできません。

そのため、クラス全体にとって安全な理解可能性を確保することには大きな意味があります。

しかし、一人で学ぶ場合は違います。

教材を自分一人に合わせられます。

難しければ変えられます。

字幕を使えます。

同じ場面をもう一度見られます。

今日は疲れているから簡単な動画にできます。

明日は集中できるから、難しいインタビューへ挑戦できます。

自分が10年間詳しく追ってきたテーマなら、通常より難しいコンテンツを選べます。

どうしても続きが見たい作品なら、多少理解度が低くても集中できます。

難易度だけでなく、「条件」を変えられる

理解できない時、多くの人はすぐに、

「もっと簡単な動画を探そう」

と考えます。

もちろん、それも選択肢です。

でも、個人学習では他にも動かせるものがあります。

  • コンテンツそのもの
  • 同じテーマへの背景知識
  • 映像の有無
  • 字幕やトランスクリプト
  • 再視聴
  • 話者への慣れ
  • 一回の視聴時間
  • 集中する時間帯
  • その日の疲労度
  • 内容への興味

CHADSでは、こうした要素を使って、InputをCalibration=調整していきます。

ただし、ここから先には組み合わせがあります。

いつ難易度を下げるのか。

いつ補助を増やすのか。

いつ字幕を外すのか。

どの程度難しい素材を、どのInput活動で使うのか。

どの状態なら続け、どの状態なら切り替えるのか。

この実行部分は、CHADSのプログラム内で詳しく扱います。

個人学習の強みは、「最適な教材」を一度見つけることではありません。今の自分に合わせて、理解可能性を動かし続けられることです。


難しいコンテンツは避けるべき?

理解可能なInputを知った人が、次に陥りやすいのが、

「難しいコンテンツはすべて悪い」

という考え方です。

これは極端です。

難しいコンテンツでも、意味を追える条件が揃うことがあります。

1.その分野について詳しい

仕事でマーケティングをしている人なら、英語のマーケティング動画に出てくる専門用語や論理を予測できます。

英語自体は難しくても、内容は未知ではありません。

2.ストーリーをすでに知っている

日本語で何度も見た映画を英語で見る場合、人物関係や展開を知っています。

聞き取れない部分があっても、意味の流れが完全には消えません。

3.映像から大量の情報を得られる

料理、スポーツ、DIY、ゲーム、旅行などは、言葉以外から何が起きているか分かりやすいことがあります。

4.興味が非常に強い

多少難しくても、続きを知りたい。

その人の話なら聞きたい。

この状態では、簡単でも退屈な教材より長時間集中できることがあります。

ただし、

「好きだから、何も理解できなくても2時間流しておけばいい」

という意味ではありません。

誰が何を話しているか分からない。

展開を追えない。

字幕を見ても回復できない。

10分後に何が起きたか説明できない。

この状態では、意味中心のInputとしての密度は低くなります。

難しい素材を使うなら、難しさを支える別の条件が必要です。

イマージョンに使える英語コンテンツと選び方を詳しく読む


簡単すぎる英語は意味がない?

反対の質問もあります。

「知らない表現がほとんどないなら、成長しないのでは?」

必ずしもそうではありません。

言語習得では、新しい言葉を増やすことだけが成長ではありません。

すでに知っている英語を、

より速く認識する。

より少ない努力で理解する。

自然な音のまま認識する。

複数の単語を一つのまとまりとして処理する。

こうした変化も重要です。

NationのFour Strandsには、Meaning-focused Inputとは別にFluency Developmentがあります。

そこでは、すでにかなり知っている言語を使い、処理をより流暢にすることが重要になります。

つまり、毎分新しい単語が出てこなくても意味があります。

「簡単になった」は、卒業のサインになることもある

以前は集中しなければ理解できなかったYouTuberが、普通に聞ける。

以前は字幕が必要だったシリーズを、字幕なしで見られる。

以前は一文ずつ処理していたのに、今は内容そのものへ注意が向く。

これは、簡単だから無駄なのではありません。

以前より処理が自動化された可能性があります。

もちろん、いつまでも同じ難易度だけに留まる必要はありません。

楽になったら、少し難しいものを追加します。

しかし、難しさそのものを目的にしないでください。

Inputの目的は、毎回苦戦することではありません。英語を使って意味を処理する能力を、少しずつ広く、速く、楽にすることです。


今日から理解可能なInputを始める4ステップ

ここまで理論を説明してきました。

最後に、初めて理解可能なInputを意識する人が、今日からできる範囲へ落とします。

ここではCHADSの詳細なCalibrationシステムではなく、基本原則だけを使います。

STEP 1:まず「理解できる英語」ではなく「理解したい内容」を探す

興味がまったくない教材を、理解率だけで選ばないでください。

最初に考えるのは、

「英語でなくても、これは見たいか?」

です。

スポーツ。

料理。

ファッション。

事件。

ビジネス。

ゲーム。

歴史。

インタビュー。

まず、自分が意味を知りたいテーマを選びます。

STEP 2:数分見て、「単語」ではなく「意味」を確認する

未知語を数えないでください。

最初は普通に見ます。

そして数分後、

誰が何を話しているか。

何が起きたか。

重要なポイントは何だったか。

これを自分なりに説明できるか確認します。

STEP 3:一部が分からなくても、流れが続いているならすぐ止めない

Input中に知らない単語が出ることは普通です。

一語分からないたびに辞書へ行けば、意味の流れが壊れます。

分からない部分があっても、前後関係から大枠を追えているなら、しばらくそのまま進めます。

何度も出てきて重要そうな表現や、理解を止めている部分は後から確認できます。

STEP 4:意味が何度も崩れるなら「何か一つ」を変える

ほとんど理解できない状態を、根性で続ける必要はありません。

コンテンツを変える。

同じテーマで分かりやすい動画を探す。

映像付きにする。

字幕を確認する。

一度内容を理解してから戻る。

短い時間だけ集中する。

個人学習では、複数の調整方法があります。

大切なのは、

「難しいから失敗」

ではなく、

「今は意味を追えない。では、何を変えれば意味を追えるか」

と考えることです。

記事で分かることと、CHADSプログラムで行うこと

この記事では、理解可能性が固定された数字ではないこと、意味を追えているかを見ること、興味・背景知識・補助によって難易度が変化することを説明しました。

実際の学習では、これらの変数を組み合わせ、「自分の場合、今日はどのInputを、どの難易度で、どの補助を使って行うか」を決める必要があります。

CHADSのプログラムでは、そのCalibrationを感覚任せにせず、自分で判断できる状態を作っていきます。

CHADSのプログラムと開始ルートを確認する


理解可能なInputだけで英語習得は完成する?

ここまで読むと、

「では、理解できる動画を大量に見ていれば、それだけで全部終わるの?」

という疑問が出てきます。

CHADSの答えは、英語習得全体をそれだけで説明する必要はないです。

KrashenはComprehensible Inputを非常に中心的なものとして捉えました。

一方、NationのFour Strandsでは、InputだけでなくOutput、意図的な学習、Fluency Developmentも区別します。

CHADSでも、英語習得を一つの活動だけで考えません。

  • Foundations:発音、基礎文法、頻出語彙など、英語を理解するための土台。
  • Input:理解可能な英語へ継続的に触れ、意味、音、文法、使用文脈を獲得する。
  • Output Calibration:理解している英語を実際に取り出し、試し、修正し、必要な時に使える状態へ調整する。
  • Social Dynamics:文化、感情、距離感、会話の流れを含め、人とのコミュニケーションを成立させる。

理解可能なInputは、この中でも特に、実際の英語を大量に理解し、言語のパターンを蓄積するための中心的な環境です。

しかし、大人の学習者は必要に応じて文法を整理できます。

発音を意図的に練習できます。

語彙を覚えられます。

そして、十分な英語が自分の中にできてきたら、それを会話の中で取り出し、調整する必要があります。

だからCHADSでは、

Inputか、文法か。

Inputか、Outputか。

という二択にはしません。

それぞれが、言語習得の中で違う仕事をしています。

CHADSの英語習得ロードマップ全体を読む


理解可能なインプットについてよくある質問

理解可能なインプットとは簡単に言うと何ですか?

英語を聞いたり読んだりしながら、知らない言葉が多少含まれていても、文脈、映像、背景知識、既知の語彙などを使って、伝えられている意味を追えるInputです。単に英語が耳へ入っている状態とは区別します。

i+1とは何ですか?

Krashenが使った考え方で、iは現在の言語能力、+1は現在より少し先にある言語要素を表します。ただし、「正確に一段階だけ難しい教材を毎回選ぶ」という教材選びの公式ではありません。十分な理解可能なInputの中で、まだ身についていない言語へ出会うという考え方として理解するとよいでしょう。

理解可能なインプットは何%理解できればいいですか?

全員、すべての媒体へ適用できる一つの数字はありません。95%や98%という数字は主に語彙カバー率の研究から来ており、「動画の内容を98%理解しなければならない」という意味ではありません。Reading、Listening、映像付きコンテンツでも必要な条件は異なります。実践では、大枠の意味や展開を継続的に追えているかも確認してください。

90%しか分からない動画でもInputになりますか?

なり得ます。ただし、「90%」を正確に測ること自体が難しいため、数字だけでは判断できません。背景知識、映像、テーマへの興味などを使って内容を追えているなら有効なInputになる可能性があります。反対に、語彙を多く知っていても内容をほとんど追えていなければ、Meaning-focused Inputとしては弱くなります。

日本語字幕を使ったらComprehensible Inputではなくなりますか?

字幕を使った瞬間にInputではなくなるわけではありません。日本語字幕で意味を短く確認し、その後英語音声へ注意を戻す使い方もできます。ただし、最初から最後まで日本語だけを読み、英語音声をほとんど処理していなければ、Listening Inputとして行っている活動は変わります。

英語字幕は使うべきですか?

目的とレベルによります。英語字幕は、聞き取れなかった音と知っている単語を接続したり、重要な部分を確認したりする助けになります。一方、文字だけを読み続けるとListeningへの注意が減る場合があります。字幕を「理解を代わりに行うもの」ではなく、意味を回復する補助として使う考え方が重要です。

難しいネイティブ向けコンテンツは見ない方がいいですか?

必ずしも避ける必要はありません。テーマへの強い背景知識、映像、既知のストーリー、字幕などがあれば、言語的には難しいコンテンツでも意味を追える場合があります。ただし、ほとんど意味が取れない状態を主要なInputとして長時間続ける必要はありません。

簡単な英語ばかり聞いても成長しますか?

簡単なInputには、知っている英語をより速く、楽に処理する経験を増やす役割があります。一方、新しい語彙や構造へ出会うためには、少し難しいInputも必要です。毎回最大難易度へ挑戦するのではなく、理解しやすいものと成長につながるものを組み合わせていきます。

Comprehensible InputとMeaning-focused Inputは同じですか?

関連していますが、完全に同じ概念ではありません。Comprehensible InputはKrashenの理論で中心的な概念です。Meaning-focused InputはNationのFour Strandsの一つで、学習者が聞く・読む活動の中で、言語形式より意味やメッセージへ主な注意を向けていることを重視します。

Comprehensive Inputという言葉もありますか?

comprehensiveは「包括的な」という意味で、Krashenの言語習得理論で一般的に使われる用語ではありません。英語習得について検索する場合は、comprehensible inputが正しい表現です。


まとめ:「何%分かった?」より「意味を追えている?」

理解可能なインプットという考え方は、とてもシンプルです。

言語は、意味のない記号として大量に浴びるだけではなく、意味と結びついた状態で経験する必要がある。

しかし、そのシンプルな考え方を実践しようとすると、数字が入り始めます。

i+1。

95%。

98%。

初心者向け。

中級者向け。

すると今度は、意味を追うより、自分のInputが「正しい条件」を満たしているかを考える時間が増えてしまいます。

研究が示している大きな方向性は重要です。

理解可能性が高いほど、内容を理解しやすい。

未知語が増えれば、理解は難しくなる。

しかし、現実の個人学習は、研究用に作られた文章や音声より複雑です。

あなたには背景知識があります。

興味があります。

映像があります。

字幕があります。

一度見たストーリーがあります。

好きな話者がいます。

疲れている日もあります。

集中できる日もあります。

そのすべてが、同じ英語をどの程度理解可能にするかを変えます。

理解可能なInputとは、「簡単な英語」のことではありません。今の自分が、英語を使って意味を追い続けられる状態です。

だから、次に英語動画を見る時、

「これは何%分かる?」

と最初に聞く必要はありません。

普通に見てください。

誰が何を話しているか分かる。

さっき何が起きたか分かる。

話の方向が分かる。

次に何が起きるか少し予想できる。

そして、続きが気になる。

その状態なら、あなたは英語を「勉強対象」としてだけではなく、意味を受け取る言語として処理しています。

分からなくなったら、失敗ではありません。

調整します。

少し簡単にする。

文脈を増やす。

補助を使う。

もう一度見る。

別の日に戻る。

そして英語力が上がれば、以前は理解不能だった世界が、少しずつ理解可能な世界へ移っていきます。

CHADSが最終的に目指しているのは、永遠に「理解可能な教材」を探し続けることではありません。

自分が本当に見たい、聞きたい、読みたい英語の世界そのものが、徐々に理解可能になっていくことです。


私たち「CHADS」とは?

CHADSは、英語を試験科目として学ぶのではなく、実際の生活やコミュニケーションで使える言語として習得するためのデジタルプログラムを提供しています。

私たちは、第二言語習得研究と、複数言語を身につけてきた実践経験を、日本人の成人学習者が理解し、生活の中で実行できる形へ整理しています。

理解可能なInputも、「この数字を守れば成功する」という固定ルールとして扱いません。

学習者の英語力、興味、背景知識、生活、集中度、その日に使える時間によって、適切なInputは変化します。

CHADSでは、英語習得を次の四つの領域から捉えます。

  • Foundations:発音、基礎文法、頻出語彙など、英語を理解するための土台を作ります。
  • Input:理解可能な英語へ継続的に触れ、意味、音、文法、使用文脈を獲得します。
  • Output Calibration:理解できる英語を取り出し、試し、修正し、必要な瞬間に使える状態へ調整します。
  • Social Dynamics:英語を使って人と関係を作り、文化、感情、距離感、会話の流れを含めてコミュニケーションを成立させます。

この記事で扱った理解可能性のCalibrationは、その中でもInputを「流している時間」ではなく、意味を処理している時間へ変えるための考え方です。

そして英語力が上がるほど、調整しなければ理解できなかったコンテンツを、普通の娯楽や情報として楽しめる範囲が広がっていきます。

CHADSのプログラム一覧を見る


この記事と他のCHADS記事の役割

この記事は、Input全体を説明する記事ではありません。

「理解可能とは何か」「i+1をどう考えるか」「理解率の数字とどう付き合うか」「個人学習でどう難易度を判断するか」を深く理解するための記事です。

Inputの量、字幕、聞き流し、動画・Podcast・読書の使い分けなどは、次の記事で詳しく整理しています。


この記事で参照した主な資料

  • Krashen, S. D. (1982). Principles and Practice in Second Language Acquisition:Comprehensible Input、i+1、言語習得と意図的学習の区別に関する基本的な枠組み。
  • Nation, I. S. P. (1996). “The Four Strands of a Language Course” およびFour Strands関連研究:Meaning-focused Input、Meaning-focused Output、Language-focused Learning、Fluency Developmentの区別。
  • Nation, P. (2026). “Revisiting the Four Strands”:Four Strandsをcourse design principleとして改めて整理した論文。
  • Hu, M. & Nation, P. (2000). “Unknown Vocabulary Density and Reading Comprehension”:未知語の割合と読解理解度の関係、約98%の語彙カバー率に関する研究。
  • Schmitt, N., Jiang, X. & Grabe, W. (2011). “The Percentage of Words Known in a Text and Reading Comprehension”:語彙カバー率と読解理解度の関係を大規模サンプルで検討した研究。
  • van Zeeland, H. & Schmitt, N. (2013). “Lexical Coverage in L1 and L2 Listening Comprehension”:Listeningにおける90%、95%、98%などの語彙カバー率と理解度の関係を検討した研究。
  • Kremmel, B., Indrarathne, B., Kormos, J. & Suzuki, S. (2023). “Unknown Vocabulary Density and Reading Comprehension: Replicating Hu and Nation (2000)”:98%を固定された理解閾値として扱うことへの再検討。
  • Ellis, N. C. (2002). “Frequency Effects in Language Processing”:言語処理・第二言語習得における頻度、繰り返し、パターン学習に関するレビュー。

本記事で紹介した95%・98%などの数字は、主に実験で操作・測定された語彙カバー率に関する研究結果です。「動画の内容を何%理解できたか」という自己評価と同じ指標ではありません。また、必要な語彙カバー率はReading、Listening、映像付きInput、文章の種類、求める理解の深さなどによって変化します。

CHADSで用いる「i+2」「i+3」「i+4」といった表現は、Krashenが定義した正式な習得段階ではありません。個人学習者が、現在の言語能力よりかなり難しく感じるInputでも、興味、背景知識、映像、文脈などによって意味を追える場合があることを説明するための便宜的な表現です。

また、この記事内の「誰が何について話しているか」「直前の内容を説明できるか」「次の展開を予想できるか」などの確認項目は、標準化された科学的テストではありません。実際のInput中にMeaningへのEngagementを確認するための実践的な自己チェックとして紹介しています。

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